「構造を生成するAI」シリーズ 第3回

今回は、構造駆動生成の用途としてビジネスモデリングを取り上げます。

ビジネスモデリングとは、「企業の活動を構造として捉え、それを設計・分析・改善するための思考方法」です。

個別の施策やアイデアではなく、

・誰に価値を提供し
・どのように収益を生み
・どのリソースと活動でそれを実現するのか

といった全体像を、構造として可視化することに意味があります。

その手法を説明したBusiness Model Generation(2012年、翔泳社)という書籍はよく知られています。

同書には、ビジネスモデルの設計と分析の手法が様々紹介されていますが、その一つに、各種のビジネス環境要因がビジネスモデルに対して与える影響を分析する手法があります。

今回はこの手法に対して構造駆動生成技術をあてはめ、構造化された成果物を生成し、その技術が「業務を回すAI」としてどのような特徴を持つのかを説明します。


ビジネスモデルキャンバス

ビジネスモデルキャンバス(以下、BMC: Business Model Canvas)は、ビジネスモデルを表わすフレームワークで、以下の9個の構築ブロックから構成されます。

  1. 顧客セグメント(CS: Customer Segments)
  2. 価値提案(VP: Value Propositions)
  3. チャネル(CH: Channels)
  4. 顧客との関係(CR: Customer Relationships)
  5. 収益の流れ(RS: Revenue Streams)
  6. リソース(KR: Key Resources)
  7. 主要活動(KA: Key Activities)
  8. パートナー(KP: Key Partnerships)
  9. コスト構造(CS: Cost Structure)

この構築ブロックに対して適切な定義や説明を与えることで、ビジネスモデルを構築することができます。

また、このようにして表現されたビジネスモデルは、ビジネス環境要因を用いて、さまざまな角度から分析することができます。

書籍で紹介されているビジネス環境要因は、以下の4分類です。

(1)市場における圧力
(2)産業における圧力
(3)重要なトレンド
(4)マクロ経済の圧力

これら4分類はさらに詳細項目を含み、ビジネス環境要因は全部で18種類あります。

たとえば、(3)重要なトレンドには、以下の4種類のより詳細な要因が含まれています。

・技術トレンド
・規制トレンド
・社会的・文化的トレンド
・社会経済トレンド


ビジネスモデルの分析

分析の方法はシンプルです。

これら18種類の環境要因を、9個の構築ブロックそれぞれと対比し、各ブロックがどのような影響を受けるかを考えます。

例えば、書籍に紹介されている製薬業界の例では、「パーソナライズされた医療や診断」という技術トレンドが、「主要活動(KA)」や「リソース(KR)」に与える影響を検討しています。

このように、すべての構築ブロック × すべての環境要因を評価し、その結果によってビジネスモデルを更新していく。

それを繰り返すことで、環境に適応し、機会を増やし、脅威を減らしていくという考え方です。


これは簡単な作業か?

では、この作業を実際に行う立場で考えてみましょう。

ビジネス環境要因は18種類。

つまりこの手法は、9(構築ブロック) × 18(環境要因)=162通り

の組み合わせを評価することを前提としています。

これは「考え方」としては正しい。

しかし、「業務」として成立するでしょうか?

もちろん、関連性の薄い組み合わせもあるでしょう。

しかし、それは実際に組み合わせてみて初めて分かるものです。

したがって、162個の作業が存在するという事実は変わりません。


AIに任せられないか?

では、この162回の思考作業を、AIに任せることはできないのでしょうか?

結論から言えば、「完全には無理」です。

なぜなら、この分析は本来、そのビジネスの当事者にしかできないからです。

しかし一方で、構築ブロックやビジネス環境要因自体は、一般的な概念です。

であれば、概要レベルの分析であれば、AIでも実行可能ではないでしょうか。

もし、AIによる「下書き」があらかじめ存在すれば、

当事者はそこに対して判断や修正を加えるだけでよくなります。

この発想から、構造駆動生成を用いたツールを開発しました。


BMCビジネス環境自動分析ツール

本来のBMCでは、各構築ブロックに対して具体的な内容を一つ一つ記述する必要があります。

しかし今回のツールでは、その作業を不要としました。

代わりに、企業や業界の特徴を記述した「プロフィール」を一つ用意するだけで良い設計になっています。

これは、構造駆動生成により、プロフィールからビジネスモデルの構造を内部的に推定しているためです。

このプロフィールを入力するだけで、そこから推定されるビジネスモデルの環境分析を一括で実行することができます。

プロフィールは、短い説明でも、ある程度の長文でも問題ありません。

なお今回のプロトタイプでは、18種類あるビジネス環境要因のうち「重要なトレンド」に含まれる4要因のみを対象としました。

そのため、

9(構築ブロック) × 4(要因)=36通り

の組み合わせとなっています。


SaaS企業のプロフィール

用意した企業プロフィールは、受発注業務のBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)を行っている架空のSaaS企業としました。以下が、ツールに入力した企業プロフィールです:

当社は、企業間取引における受発注業務の効率化を目的としたSaaSを提供しています。メールやFAX、PDFなどで受け取る注文情報を一元的に管理し、社内システムへの登録や進行管理を支援することで、日々のオペレーション負荷の軽減を図っています。

創業当初は、受注処理の現場における入力作業や確認業務の負担を軽減することを目的に、小規模な業務支援ツールとしてサービスを開始しました。その後、導入企業の増加に伴い、ワークフロー管理や外部システム連携などの機能を段階的に拡張し、現在の形に至っています。

現在は、受発注件数の多い製造業や卸売業を中心に、従業員50〜300名規模の企業で利用されています。注文情報の可視化や処理状況の管理、業務の標準化を通じて、安定したオペレーションの実現を支援しています。一部の企業では、当社サービスとあわせて、受注データの登録や確認作業の代行もご利用いただいています。

収益モデルはユーザー単位の月額課金を基本とし、業務量に応じた追加料金が発生する仕組みとしています。現在は国内市場を中心に展開しており、業務基盤として継続的に利用されるサービスを目指しています。

このプロフィールをもとに、36通りすべての組み合わせに対して、ビジネスモデルの評価を行います。

今回、SaaS企業を対象とした理由は、生成AIの影響を、今後最も強く受ける業種の一つであると言われているからです。

実際に、SaaS企業の将来性に対する悲観的な見方は、すでに市場に現れています。

では、そのような見方は、構造的な分析によっても導かれるのでしょうか。


分析結果

結果は、以下の表のようになりました。(ツールからはHTMLやMarkdown形式で出力されます)

この表は前述のように、9X4=36のセルがそれぞれ、数行の評価結果が4~5個含む大きなものとなるため、専用ページに掲載していますのでご覧ください。以下にはその一部を掲載します:

36通りすべての組み合わせに対して、評価結果が出力されています。各構築ブロックに対してポジティブな評価が緑色で、ネガティブな評価が赤色で、どちらでもないものが灰色で表示されています。

構造駆動生成により、何度実行しても、同じ構造・同じ網羅性で結果が得られます。

構築ブロックも、環境要因も、あらかじめ定義した項目がぶれることはありません。

各セルに出力されたネガティブな赤色の評価の数を表にしてみました。

SaaS企業への悲観的な見方の背景となっている生成AIは、この表では技術トレンドに含まれることになりますが、そのカラムを見る限り技術トレンドに赤色は少ない、したがって、むしろポジティブな評価に多く貢献しているように見えます。

しかし、技術トレンドのポジティブ側の貢献にもかかわらず、全トレンドに対して9番目の構築ブロックであるコスト構造にはネガティブな評価が多く存在します。技術とは無関係に、SaaS企業は厳しい時代に入っていくのかもしれません。

この結果が妥当かどうか。

それを考えること自体が、すでに構造的な思考の第一歩です。

このツールは、AIの評価が書きこまれたこの段階から人間が議論を深めていくことを意図しています。


これまでの生成AIの使い方ならどうなるか?

さて、構造駆動生成に話を戻しましょう。

従来の生成AIの使い方で同じことを行うと、

方法は大きく2つに分かれます。

① 個別のセルに対応して、36回に分けてプロンプトを実行する
② 全てのセルを評価すべく、36通りを一度に入力する

①の場合、

単純に手間が膨大です。

さらに、

バラバラに出力された結果を統合する作業が発生し、それはほぼ確実に破綻します。

②の場合、

問題はより本質的です。

結果が安定しません。

36通りすべてが出るかもしれないし、出ないかもしれない。

そのため、何度も試行を繰り返すことになります。

それは、効率の悪い徒労です。

そして思い出してください。

本来は36ではなく、162通りだったはずです。

どちらの方法も、第1回で述べた「業務が回らない」状態を生み出します。


構造駆動生成がもたらすもの

それに対して、

構造駆動生成に基づくアプローチは、

明確な特徴を持っています。

・再利用可能性:人が変わっても同じ方法で実行できる
・比較可能性:成果物同士の比較ができる
・改善可能性:自社で継続的に改善できる

これは単なる効率化ではありません。

「業務として成立するAI」

への転換です。


次回予告

次回(最終回)は、

今回のツールで用いた構造駆動生成技術の仕組みと、

そのユースケース、そして企業への導入方法について解説します。


「構造を生成するAI」シリーズ

第1回
なぜAIを導入しても業務は賢くならないのか(掲載済み)

第2回
構造を生成するAIとは何か(掲載済み)

第3回
SaaS業界のBMCビジネス環境分析(本記事)

第4回(次回)
構造を企業に導入する方法

株式会社シナジー研究所 fusion AI
fusion AI YouTubeチャンネル
fusion AI SM-PoC(構造化モデリングPoC)

シナジー研究所のfusion AIでは、この連載でご紹介したBMCビジネス環境自動分析ツールを用いた支援サービスの提供を予定しています。