このページでは、生成AIを業務に効果的に活用するための新しいアプローチについて,YouTube動画、「失敗しない生成AI活用システムのつくり方 構造化モデリングPOC(SM-POC)スカウトメール(続編)(2025-5-29改訂版)」にもとづいて解説しています。Podcast(日本語)、Podcast(英語)。
POC(Proof of Concept:概念検証)は、新しい技術やアイデア、システムが実際に使えるかどうかを検証するための試行的な取り組みです。特に生成AIの分野では、技術の検証とアイデアの検証が同時に目的とされることが多い傾向があります。
構造化モデリングPOC(SM-POC)は、このPOCに「構造化モデリング」という考え方を組み合わせたものです。経営・業務上の意図や課題を、業務フローやデータ構造、システム構造などの形式でモデル化し、生成AIを活用して極めて短期間にプロトタイピングを含めたPOCを行う方法論です。
SM-POCは、アイデアの検証に重きを置き、技術の検証は継続的・反復的に行い、システムは最終的に完成させるという立場をとっています。
SM-POCと生成AIの関係は二通りあります。一つはSM-POCが生成AIという技術を検証する場であるという関係。もう一つは、SM-POCがアイデアの検証を行う場であり、そのアイデア検証を生成AIの創造性が支援するという関係です。
SM-POCのプロセスは、以下の4つのフェーズで構成されます。
これらのフェーズは、必要に応じて複数回繰り返されることがあります。
業務のモデル化では、まず組織図や業務フロー図を作成し、業務の流れや担当者を可視化します。次に、システムがどのように利用されるかを定義するユースケース図を作成します。これにより、どのような仕事がどのような目的で行われるのか、誰がどのようにシステムを使うのかが明確になります。
例えば、スカウトメール作成業務をモデル化する場合、求職者が求人に応募し、人事部がスカウトメールを作成・送信するという業務フローが考えられます。
課題解決策として、応募者の適性に合わせて面談部門を決定し、その情報をスカウトメールに記載するという業務改善を考えた場合、業務フローの形は変わりませんが、業務名に違いが現れます。
ユースケース図では、採用担当者というアクター(役割)がスカウトメール作成というユースケース(仕事と目標)を実行します。課題解決策では、適性評価と面談部署決定という新しいユースケースが追加され、これに対応するAIアシスタントが加わります。
システムのモデル化では、ユースケースを実現するためのシステム構造と、それを支えるデータ構造を定義します。データ構造図では、応募者リスト、応募者、スカウトメールといったデータの要素と、それらの間の関連性、そして各要素が持つ属性(氏名、経歴、文面など)を定義します。
課題解決策として、応募者データ(自己PR文など)からAIが適性のある部署を判断するという機能を実装する場合、データ構造に応募者の詳細な属性や、部署と適性カテゴリーの関連性といった情報が追加されます。
適性カテゴリーの導入は、応募者の行動傾向や思考スタイルといった特徴を分類し、それぞれの部署が求める適性カテゴリーと紐づけることで、より適切な面談部署の決定を支援します。
プロトタイピングは、このシステムのモデル化と実装を行うフェーズであり、以下の3つのステップに分けて進めることができます。
動画では、スカウトメール作成業務における適性評価と面談部署決定のプロセスを、SM-POCの考え方に基づいて実装したデモが紹介されています。
このデモでは、タスクボットとタスク管理システム(Redmine)を連携させ、応募者情報をRedmineのチケットとして管理し、タスクボットを通じて生成AIに処理を依頼します。生成AIは応募者の自己PR文などを基に、適性のある部署を判断し、その結果をRedmineのチケットに反映させます。
SM-POCの大きな価値は、POCを繰り返すことによって得られる知見にあります。
例えば、1回目のPOCでビジネスアイデアが成功し、生成AIで実現できたとしても、技術的な課題(応答時間、推論精度など)が残る場合があります。この場合、ビジネスアイデアは再考が必要となり、技術的な改善に注力することになります。
逆に、ビジネスアイデアは再考が必要になったが、技術的には生成AIで十分に実現可能であることが確認できた場合、技術的な成果は残り、ビジネスアイデアを練り直すことに注力できます。
また、POCを繰り返す中で、生成AIの確率的な挙動がビジネスルールにそぐわないケースが確認されることもあります。このような場合、ビジネスルールの確実な実装手段として、生成AIに依存しない外部関数などを検討・実装するという判断が可能になります。
このように、SM-POCはPOCの繰り返しを通じて、ビジネスアイデアの価値と技術的な実現可能性をリスクを抑えつつ短期間で見極め、最適な開発方針を決定するための戦略的なアプローチです。大きな設備投資に踏み切る前に、確信を持ってプロジェクトを進めることができるようになります。
SM-POCの標準的な実施環境は、タスク管理システム(Redmine)とタスクボット(旧称チャットボット)を中心に構築されます。
タスク管理システムは、タスク管理を始め、アダプタを開発することで多くのシステムと自然言語(多言語)での会話を可能にします。タスクボットは、OpenAI Assistants APIを利用可能なモデル(LLM)を選択できます。
外部システム(ERP, CRM, 生産管理, 制御システム, ビジネスルールなど)との連携は、アダプタ群(インターフェース)を介して行われます。POCの目的やユーザー環境に合わせてアダプタを開発しますが、タスク管理アダプタは標準実装済みです。
SM-POCの進め方について、お気軽にお問い合わせください。