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中小、AI「活用」2割未満

中小企業を中心とする帝国データバンクの調査で、業務に生成AIを活用している企業は、対象となった4700社の中で17.3%にとどまることが分かったという記事。利用に向けた課題としては、「AI運用の人材・ノウハウ不足」が54.1%と最も多く、経営層が利便性を理解するものの、運用体制が追いついていないと伝えている。

この記事で強い印象を受けるのは、経営層と現場の理解度のギャップの大きさだ。生成AI活用に対する理解は、「大いに理解あり」「やや理解あり」の合計が経営層では8割近くだった半面、現場は59.5%だった。

これは筆者の想像だが、現場の無理解は、生成AIが理解できないのではく、何らかの業務上での試行の結果、未だ利用に堪えない、完全ではない、あるいは、まだ人間の仕事の方が優れていると言った「期待」や判断の結果なのではあるまいか。それに対して、経営層は、生成AIがもたらす機会と脅威を直感的に理解し、理解しない現場に不安を覚えているのが実態なのかもしれない。

ビジネスリーダーに多大な影響を与えたクレイトン・クリステンセン教授の著書「イノベーションのジレンマ」は、成功している企業が、従来の製品やサービスを超える「破壊的イノベーション」に適応できない理由の一つとして、その初期の性能の低さや欠点に対する厳しすぎる評価によって採用が遅れることをあげている。同じことが日本の生成AIという「破壊的イノベーション」に対しても起きようとしているのではないかと懸念される。

ただ、この記事では、新興企業の採用は積極的であるとも伝えている。上記の書籍は、優良企業や市場を確立した企業こそが「破壊的イノベーション」の採用に失敗すると説明しているが、生成AIも、企業の世代交代を促進する一因となるのかもしれない。

この記事は、また、総務省が7月5日に発表した2024年版情報通信白書が、メールや議事録作成などに生成AIを利用している企業は46.8%であり、米国(84.7%)、中国(84.4%)と比較して大幅に低いことを伝えている。

日本で大幅に低い生成AIの利用率の原因が、上記のように、経営ではなく現場の無理解や誤解、あるいは厳しすぎる評価から来るものであるなら、生成AIが生み出す機会と脅威を真剣にかつ迅速に現場に伝え、利用を促すことが、経営の喫緊の課題であろう。