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社会課題の解決、技術活用で 細川範之・東大教授(日経新聞朝刊 経済教室面:2024/7/8)

社会課題を解決する必要性が叫ばれているが、この記事は、社会課題の解決が金銭的な経済成長と矛盾することなくプラスの相互作用を作り出すための方策について解説している。人は金銭的な動機によって行動するものだが、一方で、地球環境や経済格差など、解決までに時間的余裕が残されていないと誰もが感じる課題が山積している。これらの社会課題の解決は、金銭的な動機による行動とは矛盾するようだが、果たしてそうなのか。日ごろの問題意識にジャストフィットする記事だった。

金銭的な経済成長と社会課題の解決とは矛盾するものではなくプラスの相互作用が成立する。しかし、そのためには、以下の3つを促す技術活用と制度改革が必要であると言う。

  • 起業家精神の発揮
  • 利他的意識の見える化
  • 企業間連携の外部性の内部化

「起業家精神の発揮」は、プラスの相互作用を発生する要因として最も理想的なものだ。しかし、それだけでプラスの相互作用を生み出すことは困難で、残りの2つによる補強が必要だとしている。

「利他的意識の見える化」とは、利己ではなく利他的な行動を促す制度やテクノロジーである。それによって社会課題の解決がより強く動機付けされるようになる。また、「企業間連携の外部性の内部化」とは難しい言葉だが、社会課題を解決するプロジェクトによって、コスト増を強いられる企業と、便益を受ける企業の間で市場取引が成立すれば、上記のプラスの相互作用は働くと解釈すれば良いようだ。

日ごろからの問題意識に対して、その解決策がわかりやすく解説されているこの記事は大いに参考になった。ただ、「起業家精神」とは、数多くのテクノロジーや制度によって庇護されなければならない程度の強さしか持たないものか、という新しい問題意識をこの記事は与えてくれた。

宇宙ビジネスが社会課題の解決と言ってよいのかわからないが、イーロン・マスクのスペースXは、相互作用ためのテクノロジーや制度によってどれほどの支援を受けたのだろう。彼を例外扱いしたくはなるものの、あのような「人物」そのものを育て支援する土壌や仕組みについての興味が刺激される記事だった。